【130】 出口の見えない年金問題               2007.06.20
      − 参議院選挙での保革逆転必至、ここで民主党は… −



 安倍内閣の支持率が、大きく下落している。中日新聞(6/3)では支持する35・8%、支持しない48・7%。読売(6/8)は支持する32・9%、支持しないは53・7%で、産経(6/5)は支持する32・3%、支持しない50%近で、いずれも昨年9月の内閣発足以来、最低となった。
 内閣支持率が政権評価の全てではないが、戦後レジュウム(体制)の脱却を掲げて、小泉前首相の路線を踏襲しながら、憲法改正・公務員改革・教育改革を大きな柱として新しく美しい日本を築こうと船出した安部政権のスタートは、保守本流の切り札として期待感も大きく、内閣支持率は63%、不支持率は18%(朝日、2006.09.27)。発足時の支持率としては小泉内閣の78%には及ばないものの、最近では橋本内閣の61%を上回る、戦後歴代3位の高水準であった。
 安倍内閣は発足から8ヶ月、圧倒的な衆議院与党の議席数にも支えられて、教育基本法の改定、国民投票法案、公務員改革法案、防衛省昇格など、戦後日本の積年の課題でありながら歴代の内閣が手をつけられなかった問題についての法案を次々と成立させ、また、中国・韓国を初め中東各国の歴訪を果たすなど、それなりの仕事をしてきている。
 しかし、ここに来て一気に燃え上がった「年金記録紛失問題」は、国民をないがしろにしてきた社会保険庁と、それを管理する政府・与党の責任を厳しく問うものになり、阿部内閣の支持率を冒頭の数字に押し下げている。


 長妻 昭衆議院議員(民主党)が初めて年金記録の紛失の問題を取り上げたのは、昨年の6月…、まだ小泉政権時であった。当時の官邸では「たいへん深刻な問題」とひそかに対応を協議していたのだが、9月に政権が交代して話はうやむやとなっていたところ、『5000万件の年金記録が紛失』という衝撃的な数字が新聞紙面を踊り、内閣支持率の急降下で政府与党は国民の怒りの大きさを思い知らされることとなった。「支持率は上下するもの」などといった戯言(ざれごと)をかましている数字ではなくなっていた。
 危機感を抱いた官邸は、早急に対応策を厚労省と社保庁に求めるが、提出されたものは何十年も前の領収書を提出しろというような「新対応策パッケージ」(社保庁5/25発表)と変わらないもので、まだ能天気に「照会の申出を勧奨する」などと書かれていた。「こんなものでは国民は納得しない」と政治主導を決意した官邸は、「認定のための第三者委員会」を信頼を失った厚労省に担当させることを避け、総務省内に組織することを決めたのである。


 だが、この第三者委員会は、保険金納付の認定を厚労省や社保庁から切り離して行うというだけのもので、納付者は何らかの納付を証明するものを示さなくてはならないのだから、何十年も前の領収書などあるわけがないものをどう認定するかという根本的な問題は解決されない。
 どこまでも参院選をにらんだ時間稼ぎであり、選挙後は証明できないものは認定は難しいということを、厚労省や社保庁でない(政府が選んだ)第三者に言わせるだけのことである。『証明できないものは認定できない』のである。第三者機関に委ねても、その結論しか出ないということで、結果にお墨付きを与える手続きとしたいという意図である。
 同時に、厚労省や社保庁を年金問題の矢面から外し、国民の批判をかわす狙いもあるのだろう。社保庁を解体して、年金機構に組織換えするというのも同様の狙いである。現在、噴出している問題にケジメをつけるところに新しい組織の姿が見えてくるのであって、問題を解決できないままに新しい組織を作ったとしても、責任追及を絶つための手段だとしか見られまい。


 これでは、国民の納得を得ることはできない。納付の証明のないケースにどう対応するかは難問である。何の証明もない申告をその通りに認めれば不正受給を招くし、証明を求めれば救済にならない。それでも、納付記録の紛失という、国民の年金を預かるものとしてあってはならないミスを犯したことへの対応策を講じるのが、管理者としての責務である。
 国民の納得を得る結論はただひとつ、全ての人が得をする給付を実現することだ。政府与党が国民の信頼をつなぎとめようとするのならば…、あるいは民主党が政権を奪取して本気で国政を担う覚悟があるのならば…、『国民全てに最低月額65000円。プラス、判明している上乗せ分を全額支払っていく年金制度にする』ぐらいの提案をすることだ。現在の年金基金に加えて、構造改革を実施すれば、財源を確保するのはそれほど難しいことではない。


 7月の参議員選挙で、保革逆転が実現するのは確実だろう。


 ホント、この国の政治は国民をなめきっている。社保庁問題に象徴されるような、長い自民党政権は政治や社会の仕組みのあちらこちらに、埃(ほこり)や澱(おり)のようなものを沈殿させてきている。これらは摘発や改革といった人の手で行う処理ではどうしようもなく、政権交代という理念や姿勢の大きな転換が必要なのだと思う。
 しかし、絶好の材料が転がり込んできて、政権交代の芽が出てきた民主党の足腰はどうだろうか。先日の党首討論を見ていても、年金問題に腰が引け 松岡農水相の葬儀に逃げたい安倍首相に対して、小沢代表はするどく切り込み追い詰め…、久々の圧勝かと思って見ていけれど、相変わらずの歯切れの悪さ…。
 国がはたらいた振り込め詐欺に対して、「社保庁の改組・時効の撤廃」などという、何の具体的な解決にもならず、被害者のほとんどは救済されない政府案を示され、さらに「申請があったものは全て支給しろと言うのですか?」という安倍首相の一言に、「国民の立場に立った改革をと申し上げているのでありまして…」なんて情緒的なことを言うのが精一杯…。
 せめて「今回の事態を招いた当事者として、受給者に不利をもたらさない方法を具体的に示すべきでしょう」ぐらいの詰をしてほしい。そして、案を示せと言われれば『 国民全てに最低月額65000円。プラス、上乗せ分を支払う』と提言すれば、民主党の政権獲得は確実なのだが、そこまでの構想も腹もないというところか。
 加えて、「年金記録紛失問題」は民主党の長妻議員のコツコツとした取材と追求によって明るみに出たわけであるが、巷間伝えられるように、内部告発でしか判りえない記録の紛失という不祥事は、社保庁解体を図る安倍政権に揺さぶりをかけようとする内部組織…ありていに言えば自治労職員からの情報であったとすれば、社保庁という組織は外殻も中身も腐っていると言わねばならない。
 「45分働けば15分の休み」とか「1日のCPのキー操作は5000回まで」などといったサボることだけを目的とした労使協定を結び、ぬるま湯の組織が解体されるとなると自らの恥をも告白して揺さぶりをかける自治労こそは、諸悪の根源と言っても過言ではない。そんな組織を支持母体としている民主党が、真の国民政党に脱皮できるかどうか、自浄努力が問われているところである。


 政局は、参議院の保革逆転を契機として政界再編成が行われ、衆議院解散へと進めば、ひとつの形が見えてくるのだろう。安倍首相の言う「戦後レジュウムからの脱却」は、汚濁にまみれた政治(官僚)体制を国民の手に取り返し民主化することによって、ひとつの完成を見るのだろうから…。




 しっかし…、当面の年金問題のケジメはどうするんだ! 

 
 当時の厚生大臣、社会保険庁長官、年金局長、担当課長と職員全員の、ここ20年間のボーナスと退職金を返上してもらいましょう。
 刑事告訴もしましょう。でも、75日で時効ですから…って 門前払いかなぁ(苦笑)。日本の司法は 行政とグルですからねぇ。
 ここにも、脱却しなければならない、戦後レジュウムがありました。


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